共同体感覚の育成 2 ~共同体感覚を持てるようになるための重要な要素~

本シリーズは、主にアドラー心理学・共同体感覚に関する文献を要約したものである。
腹落ちした内容のみをまとめているために内容が偏っていること、また、補足的に私個人の解釈が入っていることにご留意いただきたい。

共同体感覚の在り方

  • 自分と他者は相互依存的であり、どちらかが自己犠牲的な生き方を強要するものではない。
  • 他者を仲間だと見なし、そこに「自分の居場所がある」と感じられる。
  • 常に自分のことだけではなく、他者のことも考えることができる。
  • 他者は自分を支え、自分も他者とのつながりの中で他者に貢献できていると感じられる。

私達が生きる「世の中」という共同体は、家族、学校、企業、社会、国家というような小さな共同体の集まりである。

共同体感覚を持てるようになるための重要な要素

  1. 自己受容

    • ありのままの自分を受け入れ、その自分には自身の人生の課題を自分の力で解決できる能力があると思えること。
    • 大切なことは「何を与えられているか」ではなく、「与えられているものをどう使うか」である。
  2. 他者信頼

    • 世界は危険ではなく、自分の周りの人も敵ではないと思えること。
    • むしろ、周りの人は自分を援助しようとしている「仲間」であると思えるようになること。
  3. 他者貢献

    • 人から受け取るだけではなく、他の人にも「与える」、あるいは、他の人から受け取るだけではなく「返す」というかたちで他者に貢献する。
    • ここでいう貢献とは、たとえ目に見えるかたちで貢献していなくても、「自分は役にたっている」と感じられる貢献感のことである。
    • 他者貢献は、自分の価値を実感するためになされるものである。
    • 自分に自己犠牲を強いる性質のものではない。

この3つは、ひとつとして欠かすことはできない、いわば円環構造として結びついている。

  • ありのままを受け入れるという「自己受容」ができるからこそ、裏切りを恐れることなく「他者信頼」が可能になる。
  • 他者を信頼し、仲間であると思えるからこそ「他者貢献」することができる。
  • 他者に貢献することで「自分は誰かの役にたっている」と実感し、その感覚はありのままの自分を受け入れるという「自己受容」につながっていく。

共同体感覚の育成

共同体感覚を育成・強化していくには、「自己受容」「他者信頼」「他者貢献」を感じられる機会を多く作っていくことが効果的だと言われる。

さて、学校の生徒指導の現場では、「自己有用感」「自己効力感」「自尊感情」という言葉がよく使われるそうである。
この3つは、先に述べた「共同体感覚を持てるようになるための重要な要素」と通じており、これらの要素を高める場面を積極的に設定することで共同体感覚の育成に貢献していると言われている。
この考え方は教育現場以外にも適用できる内容であろう。大変参考になる。

ここからは「子どもの教育」に注目し、それが共同体感覚を育成・強化していくのにどう効果的であるのかを見ていく。

自己有用感

  • 人の世話をするなどした際に得られる「周りの人から必要とされている」という感覚。
  • 他者から承認され、役に立っていると実感することで得られる。
  • この感覚は「他者貢献」と通じている。どちらも、自分の行動が他者に貢献しているという貢献感を得ることを指している。

自己効力感

  • 外界の事柄に対し、自分が何らかの働きかけをすることが可能であるという感覚。
  • 自分自身に、ある目標に到達するための能力があるという感覚を持つこと。
  • 自分の能力に対する自己評価から得られる。
  • この感覚は「自己受容」の「自分には能力がある」と思えることと通じており、その能力を他者に活用できることを指している。

自尊感情

  • 自分自身の価値に関する感覚。
  • 自分を大切だと思い、自分を好きだと感じること。
  • この感覚は「自己受容」の「自分を受け入れることができる」ことに通じている。

そして、「自己有用感」「自己効力感」「自尊感情」の3つの要素を持つことで「他者信頼」が可能となる。

生徒指導の三機能

共同体感覚を育成していく上で、教師と児童・生徒の関係についての指針がある。生徒指導の三機能と呼ばれる。

  1. 自己存在感を与える

    • 教師が一人ひとりの子どもを機会あるごとに認め、子どもが自分は大切にされていると思えるようにすること。
    • 認められ、大切にされているという実感によって、教師を「仲間」であると感じることができる。
    • これは「他者信頼」に通じている。
  2. 共感的な人間関係を育成する

    • 教師が一人の人間として自己開示を行い、教師と子どもの人間的ふれあいを大事にすること。
    • これも他者信頼に通じている。
  3. 自己決定の場を与え、自己の可能性の開発を援助する

    • 自分自身で考える時間や機会を子どもに保障していくこと。
    • 自分で自分の課題を解決できるように促すことが重要。
    • これは「自己受容」に通じている。

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Series:
共同体感覚の育成 1 ~優越性の追求と共同体感覚の関係~
共同体感覚の育成 2 ~共同体感覚を持てるようになるための重要な要素~
共同体感覚の育成 3 ~褒める・叱るという行為と、勇気づけという行為の違い~
共同体感覚の育成 4 ~所属欲求と承認欲求~